アクセルマークのmobazilla ver.β
なんとなく黙ってると要らぬ誤解(色んな意味で)を受ける気がしないでもないので一応。
あくまで客観的な分析であって、決してなにかを訴えかけようとかいうものではありませんよ。
このスクリプトは、Free Software Foundation(というかリチャード・ストールマン)が言うところのフリーソフトウェアであり、ライセンスの定めに反しない限り、商用利用でもアダルトサイトでの利用でも、なんでもどこでも自由に利用いただけます(ただし、あくまで個人利用向けの仕様なので、それなりの利用者が見込まれる場合は、改変しないと実用的ではない可能性がありますけど)。利用に際して連絡などは一切不要ですし、(配布の場合など、ライセンスが定める場合を除いて)著作者などを明示する必要も、このサイトやSourceForge.jpのプロジェクトページなどにリンクする必要もありません。
実際これまでにも、このスクリプトをそのままサービスとして提供されている例もあり、あるいは、同種のサービスを提供しているところが、ここで実現している機能やアイデアを参考に、同等のものを用意されたような例もあります。もう、ご自由にどーぞ。
さて、インターネット広告代理業の大手のひとつとして知られるセプテーニのグループ会社であり、ケータイ向けの多彩なコンテンツサービスを手掛けるアクセルマーク(旧社名のハイジのほうがまだ馴染みかな?)が先日公開したアクセルマークラボというサイトで提供されている、「mobazilla ver.β」という名称のサービスも、このスクリプトを利用したものです。
アクセルマークはこのサイトの公開に際してプレス向けの発表会を開催し、また同社がこれまでにも様々な実績を残してきたからでしょうか、このサイトは主要なIT系プレスに一斉に報じられ、特に、ITmediaの記事がその提携先であるYahoo!ニュースにも掲載されたことから、それなりの注目を集めたようで、発表会の翌日の、はてなブックマークの人気エントリーには、これを報じたITmediaの記事のうちのふたつが登録されており、2ちゃんねるの携帯コンテンツ板には専用スレが立ちました。また、mobazilla ver.βの公式ブログの記事には、公開早々にmobazilla ver.βの1日あたりのページビューが97万件に達したとあります。しばらく前に、既存の同種の中でも人気の高いサービスが、その提供開始から1年経った頃に発表したプレスリリースで公表しているのが「60万PV/日を超えるアクセス」なので、mobazilla ver.βは早々にこれを上回ったことになります(もっとも、ニュースサイトからリンクを辿っただけのアクセスも、まだ多分に含まれる可能性のある時期ですから、この数字がイコール実際のサービスの利用数とは限りませんが)。
こうして注目を集めたためでしょう、このサイトにも幾つかコメントが寄せられ、私自身、初めてこのmobazilla ver.βのことを知ることになるのですが、ところが、寄せられたコメントは必ずしも肯定的なものばかりではありませんでした。
ITmediaが報じた記事のひとつには以下のような一文があります。
アクセルマークラボは、同社のスタッフが、携帯電話を利用する1ユーザーの視点で“携帯であったらいいな”と思うサービスを自社開発して一般ユーザーに公開し、ユーザーの意見を反映させながら実用化を目指すプロジェクト。
この文章は、解釈次第では、mobazilla ver.βもアクセルマークラボが自社開発したものであるというように読めます。他方で、オープンソースソフトウェアを利用したものであることについての言及は、ITmediaのものに限らず、これを報じたすべての記事で見られず、また、実際のmobazilla ver.βのサイト上でも、これは人目に触れ難いであろうところでしかなされていなかったことから、否定的なコメントは、アクセルマークの姿勢を疑うものでした。
しかし、この文章は「アクセルマークラボの各サービスは、mobazilla ver.βは別として、原則的に自社開発」というようにも解釈できますし、実際、mobazilla ver.β以外の各サービスは自社開発なのであろうと思われます。あるいは、些細な箇所ですから、ITmediaの記者が誤解した、あるいは文章が十全ではなかった可能性も考えられないわけではありません。そもそも、このスクリプトを利用していると言っても、なんらかの改変を行っているのであれば、改変した箇所に関しては「自社開発」であるわけですから、最初の解釈にしたところで、事実ではないと断言できるものではありません(少なくとも現状のmobazilla ver.βは、表面的にはこのスクリプトのままであるように思えますが、改変箇所が表面的にわかるものであるとは限りません)。
また、フリーソフトウェアの利用に関する言及がない、あるいはわかり難いということについては、冒頭で述べているように、私自身はわざわざ明示する必要はないと思っているので、個人的にはまったく気になるものではありません。
一方、ASCII24の記事には以下のような一文があります。
mobazillaやmogleは、既存のウェブブラウザーや検索サービスとは関係なく同社が独自に開発したサービスで、「勝手に名前を付けたもの」(取締役で事業担当の田島 満氏)だという。
ここでは明快に、mobazilla ver.βはアクセルマークが「独自に開発した」ものであるとされています。もちろん、上のITmediaの場合にも可能であった好意的な解釈の幾つかは、ここでもまだ可能です。
しかし、この記事にはさらに以下のような一文が登場します。
また、昨日招待制から自由に登録が可能になったグーグル(株)の無料ウェブメールサービス“Gmail”の閲覧にも対応している。これは「当初は今後の進化予定としていたが、昨日日本でも招待制の撤廃が発表されたので、朝までかかって対応させました。(アカウントをお持ちなら)すぐにお試しいただけます」(田島氏)という。
以前から利用いただいているかたはご存知の通り、このスクリプトは随分以前からGmailの利用は可能でした。少なくとも現在のバージョンに関して、Gmailを利用するためにわざわざ改変する必要はないと認識していますし、mobazilla ver.βは、Gmailがきちんと利用できなかった古いバージョンを利用したものであるようにも見えません。
朝までかかったという「対応」の内容を想像してみても、例えば直前までトップページのリンク集にGmailがなかったのであれば追加すればいいだけですし、あるいは(このスクリプトでGmailを利用するために必要な)セッション機能を無効に設定していたのであれば、設定を変更すればいいだけです。もしmod_layoutを利用しているのであれば多少手間が嵩んだかもしれませんが、それにしても、朝までかかって、つまり普通に解釈すれば数時間もかかるような作業ではありません。
もうひとつ。これは発表直後のものではなく、しばらく経ってからEnterprise Watchに連載された、上のASCII24の記事にも登場するアクセルマークの田島満さんへのインタビュー(feedpathの小川浩さんによる「Web 2.0的キーマンに聞く」という連載記事)。
田島氏
はい。実は僕はWikipediaが大好きでして、これをケータイで見たくてmobazillaというケータイ用のPC Webビューワーを作ったんですよ、ラボで。いままではW-ZERO3やPCを持ち歩いていたんですけど、面倒ですからね。Gmailのケータイ版って日本ではうまく使えないんですけど、mobazillaならちゃんと読めますよ。
いや、それ作ったのオレだから(笑)。Wikipediaなら一番最初の公開版からきっちり利用できてるし。
今回否定的なコメントを寄せていただいたかたの多くは、以前からこのスクリプトを利用いただいてきたかたがたです。今のところコーディングは私ひとりで担当しているとはいえ、このスクリプトは実際にはこうしたかたがたの意見に多くを負っており、一般的にオープンソースソフトウェアは、こうした開発者と利用者の形成するコミュニティの共有の財産でもあります。
今回のアクセルマークの姿勢について、コミュニティから批判の声が上がったことは、どうやら致し方のないことであり、その批判は決して的外れなものではなかったようです。
このスクリプトと同様のものを新たに開発するのはまったく難しいことではありませんし、自前の環境での動作が前提なら、もっと効率のよいものが作り得ることでしょう(このスクリプトは多様な環境で動作することを前提にしており、多くのレンタルサーバで利用可能なPHPを採用しているのもそのひとつですが、そのために非効率的な箇所が多々あります)。
アクセルマークラボは、サービス名称における「ver.β」や、前掲のITmediaの記事に登場する「mobile 2.0」というフレーズなど、Web 2.0という流行を意識したものであることが明瞭に見て取れるわけですが、mobazilla ver.βについて、独自に同様のものを開発するのではなく、オープンソースソフトウェアを採用したのは、Web 2.0と称されるものにおいては、オープンソースソフトウェアに対するコミットはビジネスモデルのひとつであるという考えがあるので、こうしたWeb 2.0という流行を追従する一環なのかとも思っていました(なので、逆にオープンソースソフトウェアを利用していることが喧伝されていれば、それはそれで違和感を覚えることになったのでしょうが)。しかし、これもどうやら思い過ごしだったようです。
もっとも、これらの記事によると、アクセルマークは独自に様々な機能を追加していく予定だということです。もしも、こうした追加機能がオープンソースソフトウェアとして提供されるようなことになれば、それは非常に素晴らしいことなのですが…(当たり前ですが、ビジネスモデルにおけるオープンソースソフトウェアとは、ソフトウェア自体が直接利益を生み出すわけではありませんから、例えばそのサポートビジネスなどの事業や、あるいは、例えばコミュニティの協力を得ることによる開発コストの削減といったメリットなどが見込まれない限り、営利事業体が自社開発のソフトウェアをオープンソース化することは、一般的には考えられません)。
閑話休題。
ところで、アクセルマークラボが、様々なサービスをそれぞれ独立したサイトにせずに、ひとつにまとめているのは、需要がニッチであると思われるサービスを幅広く取り揃えることによるロングテイル効果がその狙いのひとつなのかなと思われます(もちろん、需要の高いサービスは独立させていくでしょうが)。
PC向けのウェブページを携帯端末向けに変換するサービスは、携帯端末でのウェブアクセスが、機能面及びコスト面で充分ではない、まさに隙間の時期の需要であり、今後、機能とサービスの進化に伴い、いずれは消え去っていく筈のものです。実際、この類は随分古くから存在してはいるものの、Googleとはてなという例外を除いては、いずれも個人または小規模の事業体によるもので、知る人ぞ知るマニア向けの代物だと思われてきました。
ところが、前述のように、mobazilla ver.βは、既存の同種の中でも人気の高いサービスのアクセスを、その開始早々に上回ってしまいました。その要因はもちろん、これまでの既存のサービスにはみられなかった、プレスへの大量露出であるわけですが、これは、しょせんニッチだ、マニア向けだと思われてきたこのサービスの市場が、まだ少なくとも現時点では、マーケティング次第でさらなる拡がりの余地のあるものであったことを示しており、アクセルマークにとってはこれは嬉しい誤算だったかもしれません。
今回の報道記事をひと通り眺めれば明らかな通り、アクセルマークが今回の発表に際して重点を置いたキーワードは「Gmail」でした。
これが極めて効果的であったことは、ITmediaが通常の報道記事に加えて、mobazilla ver.βでのGmailの利用に特化した特集記事を掲載し、さらにその記事が、はてなブックマークの人気エントリーに登録された、アクセルマークラボに関するふたつの記事のひとつになっているという点からも伺えます。そしてもうひとつの記事は、見出しに「mobile 2.0」という刺激的なフレーズが冠されたものだったのですが、こうした適切な言葉を選び出すことによって、予想通りの(もしかしたら予想以上の)効果をあげることに成功した、アクセルマークの今回のマーケティングは賞賛されるべきものだと思います。
そして、なによりこれは、あるのかないのかよくわからないと思われてきたこの類のサービス市場が、実際はさらなる可能性を秘めていることを示した点で、市場全体に少なからぬ影響を及ぼすことになるものであったのかもしれません。
追記(06/09/14)
以下にコメントも頂戴してますが、mobazilla ver.βの公式ブログに、誤解を恐れず、mobazillaについて説明します。と題された記事が掲載されました。Gmailについての、「朝までかかって対応」の内容もそちらに詳しく書かれています。
ちょっとフォロー。
皆さんに誤解してほしくないのは、おいら個人は相変わらず、「オープンソースを使ってることを明らかにしろ」とか「作者を表示しろ」とか、まるっきり、さっぱり思ってなくて、逆にホントにそんな必要はないのだということです。
「フリーソフトウェア」なるものは、字義通り、あくまで自由であるべきものであり、GPLなどのライセンスは、その自由を(法的に)保障するためのものであって、決してそれを制約するためのものではありません(こうしたライセンスにおける制約は、そのソフトウェアを自由なものではなくする行為に対してのものです)。そして、作者がその権利を留保しているのは、ライセンス契約の一方の当事者となって契約を成立させるために必要であるからであって、決して作者であることを誇示するためではありません(諸権利の放棄された、いわゆるパブリックドメインであるソフトウェアは、決して「自由なソフトウェア」ではありません)。
いや、今回の件が、このスクリプトの利用に対して、あるいはフリーソフトウェアというものに対して、妙な誤解を与えることになっちゃうとヤだなあと思うので、一応。
2006/09/08
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コメント
rcdtokyoさま
mobazillaでおせわになっております。
いろいろご迷惑おかけしてすいません。
mobazillaのFAQブログに、僕らの言葉でmobazillaでやりたかったことを長文で掲載させていただきました。
僕らの経験不足で、誤解を生んでしまう報道になってしまいました。今後、気をつけて発表していきますので、よろしくお願いします。
Posted by アクセルマークさん at 2006/09/13 14:13
まぁ一言わせて頂くと…
アクセルマークさんは隠そうとした、もしくは誤解されるような記事を意図的に放置したという事ですよ。
「はじめに、ご存知の方も多いとは思いますが、マスコミの報道記事というのは、原則として、取材を受けた側は確認ができず、記事の修正をする権限もありません。もちろん、報道は自由であり、発表する側と書き手も、書き手と読み手も完全に意図が一致することは少なないということ受け入れなければなりません。」
記事の訂正をお願いしてもいないし、する気もないとしか読めませんね。
ま・ち・が・い報道なんですから訂正してもらえばいいでしょう。
Posted by 名無しさん at 2006/09/15 23:07
アクセルマーク社のmobazilla ver.βはpc2mがベースだったんですね。今日初めて知りました。道理で、Gmailの利用とかpc2mに似ているはずだったわけですね。やはりucbさんに先見性があったということだと思います。
Posted by セイメイさん at 2007/01/18 23:45